教育情報 第1回:共通テストで問われる読解力と
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

リリース日:2020年1月27日

第1回:共通テストでこんなに問われる読解力と『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

高等学校

2019年度(2020年1月実施済)の最後の大学入試センター試験が終わり、2020年度(2021年1月から実施)の大学入学共通テストへの切り替えが近づいてきた。2020年度以降の大学入試制度改革の2本の柱とされる「英語の民間試験導入」と「大学入学共通テストでの記述問題の導入」などが話題となっている。今回の改革でその2つの導入が見送られたが、注目したいのは、記述式問題を取り入れることになった経緯と、背景となっている学力観の変化である。

答えのない課題に向き合い、解決することが求められる子どもたちの未来にとって、思考力・判断力・表現力の重要性が増している。今回の大学入試制度改革は、そのことを強く意識して進められている。今後はマークシート式問題でも、受験生の思考力・判断力・表現力が問われることになるはずだ。

例えば2018年度実施の大学入学共通テスト試行調査(※)では、従来のセンター試験にはなかった次のような特徴が見られた。

・複数の資料を組み合わせた問題が多く、大半の科目で問題冊子のページ数がセンター試験を超過。

・身近で実用的な資料を用いた問題の増加。

例えば国語の問題5問のうち第1問~第3問は「近代以降の文章」および「実用的な文章」、第4問は「古文」、第5問は漢文。国語第2問では資料Ⅱと文章を参考に作成しているポスター資料Ⅰと、複数の情報を用いた出題がされている。

※ 参考:2018年度実施の大学入学共通テスト試行調査「国語」はこちら

このように共通テストでは、センター試験に比べ、さまざまな素材文や資料から情報を「読みとる」問題が増加する。それは、思考力・判断力・表現力のベースとなる「読解力」の育成を、日本の教育が強く意識し始めていることの表れである。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』と「読解力」の危機的状況

「読解力」が注目される背景には、調査結果から明らかになった日本の子どもたちの現状がある。

毎年全国の小学6年生と中学3年生を対象に実施されている全国学力・学習状況調査、平成30年の結果を見ると、小学6年生の国語の【読むことの知識を問う問題】の平均正答率は74.1%であったのに対し、【目的に応じて、複数の本や文章などを選んで読む】の正答率49.6%、【目的に応じて、文章の内容を的確に押さえ、自分の考えを明確にしながら読む】の正答率は52.5%であった。

また、2015年OECDの国際的な学力調査であるPISAでは、日本の子どもたちの【科学的リテラシー】や、【数学的リテラシー】はいずれも1位であったが、その一方で、【読解力】はOECD加盟国35か国中6位という結果が示された。

そして、2018年に出版された国立情報学研究所社会共有知研究センター長の新井紀子教授による著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』が、日本の中高生の読解力について危機的な状況を浮き彫りにし、教育関係者、及び、一般にも広く話題となった。

新井教授を中心とする研究チームは、学力と読解力との関係に着目して調査を実施。調査では、中学1年生から高校2年生までの生徒を対象に「読解力」を「文節に正しく区切る」「文の構造を正しく理解する」などのプロセスに分解し、それぞれのプロセスが正しくできているかどうかを測定するテストを行った。

すると、中学3年生でも文章の中での「係り受け」を理解していない生徒が15.6%、高校2年生の69.5%は「具体例同定(理数)」ができないといった結果になった。そこから「日本語のルールに従って教科書の文章を読み取ることができていない生徒がいるのではないか」ということが明らかにされたのだ。

※ 参照:一般社団法人 教育のための科学研究所発行「リーディングスキルテスト」パンフレットはこちら

日本の教育が「読解力」を強く意識する理由

学力調査の結果や、研究者からの問題定義などを受けて、「読解力」はこれからの日本の教育における最も大きなテーマの一つとなっていくことは間違いないだろう。

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「【国語】 思考力・判断力・表現力は読解力で伸ばす」
第2回は「読解力は思考力・判断力・表現力(記述力)につながる」、第3回は「リーディングスキルテストとその対策」をテーマに、教育の現場で役立つ「読解力」について掘り下げていく。