教育情報 第3回:リーディングスキルテストとその対策

リリース日:2020年7月22日

第3回:リーディングスキルテストとその対策

小学校

第1回・第2回では、大学入試や社会における読解力の重要性について述べた。読解力を伸ばすことは、子どもたちの将来にとって大きなアドバンテージになるだろう。

それでは具体的に読解力を伸ばすにはどうしたらよいのか。注目したいのが、読解力を測定し、伸ばすことを目的とする『リーディングスキルテスト(RST)』だ。

※リーディングスキルテスト(RST)とは……国立情報学研究所を中心とした研究チームが、人工知能(AI)の研究を通して開発した、文章に書かれている意味を正確にとらえる力(基礎的な読む力)を測定・診断するためのテスト。同研究所の社会共有知研究センター長を努める新井紀子氏による著書『AI vs. 教科書の読めない子どもたち』で広く知られるようになった。小学校、中学校、高等学校、大学などの教育機関のほか、企業の研修や採用試験などにも活用されている。

リーディングスキルテストについてはこちら
『一般社団法人 教育のための科学研究所』

テストに向けた学習をすることは、手っ取り早く力を伸ばす方法の一つ。生徒の読解力を伸ばすことを目的に、リーディングスキルテストを導入した小学校もある。

リーディングスキルテストが評価する力とは

読解力についてより深く理解するために、リーディングスキルテストの内容を見てみよう。

リーディングスキルテストの特徴は、教科書、新聞記事、辞書・事典といった社会で接する「事実に関する文書」を正確に読むスキルを測り、読解のプロセスを「能力値7分類テスト」に分けて評価することだ。

「能力値7分類テスト」の内容と例題

1.係り受け解析
文の構造を正しく把握する。読解力の最も基礎となる能力。

2.照応解決
代名詞が何を指しているかを正しく認識する。

3.具体例同定(辞書)
辞書の定義を用いて新しい語彙とその用法を獲得できる。

4.具体例同定(理数)
理数的な定義を理解し、その用法を獲得できる。

5.同義文判定
与えられた二文が同義かどうかを正しく判定する。語彙力や論理力が必要。

6.推論
既存の知識と新しく得られた知識から、論理的に判断する。

7.イメージ同定
文と非言語情報(図)を正しく対応づける。

一般社団法人 教育のための科学研究所」ホームページから引用

リーディングスキルテストの対策

さて、子どもの読解力を伸ばすためにも用いられるリーディングスキルテストだが、具体的にはどのような指導をしていけばよいのだろうか。ここで、栄光ゼミナール 中学受験国語科責任者の 竹本 稔 先生にお話を聞く。

「ここ数年の中学受験の出題傾向と、リーディングスキルテストの出題傾向は、同じベクトルに向いているという印象があります。」

「中学受験国語の出題傾向の一つに、文章の長文化があります。2005年当時、文章問題の字数は5,800字~6,000字ほどでした。それに対し、昨今は7,000字ほど。受験生に与えられた試験時間は変わりませんので、同じ試験時間内に扱う文字数が1,000字程度増えているといえます。つまり、限られた時間の中で、長い文章を速く正確に読む能力が求められるようになってきているのです。」

「出典も、いわゆる教科書用の文章ではなく、大人向けに書かれた新書が用いられるケースが増えています。新書の文章を読ませるということは、社会で話題になった事柄を取り扱うということです。これは“事実に関する文書を正確に読むスキルを測る”、リーディングスキルテストの内容と呼応する特徴といえるでしょう。」

「また中学受験では、具体から抽象、抽象から具体など、言葉や文章を言い換える能力が求められます。」

中学受験の国語でとりわけ重視されるのは、「2.照応解決(代名詞が何を指しているかを正しく認識する)」「5.同義文判定(与えられた二文が同義かどうかを正しく判定する。語彙力や論理力が必要)」と竹本先生。

それでは、塾の指導現場では具体的にどのような指導をしているのだろうか。

〇「作業」をしながら読む

「小学2年生くらいの低学年では〈こそあど言葉〉、4年生になると〈指示語〉といわれる言葉を学んでいきます。5年生以上になると、指示語の内容が複雑になっていきます。指示語の内容がその指示語の直前・直後に書かれておらず、長い文章のどこかに組み込まれているような文章を読み解く訓練をします。これにはテクニックが必要です。」

「説明的文章では、文章の論理的なつながりを示す指示語、そして〈たとえば、つまり、したがって〉といった接続語もポイントです。接続語を意識して読む訓練を重ねていくと、長い文章を論理的に読み解いていく力が付いていきます。また文学的文章では、気持ちを表す言葉もポイントになってきます。」

「いずれにしても大切なのは、重要な言葉をマルで囲んだり、文章に線をひいたりして、“作業しながら読む”ということです。多くの子どもたちが初めからできるわけではありません。どこをチェックしたらいいのか、最低でも3カ月くらいかけて根気よく訓練をしていくことで、徐々に自分でできるようになっていきます。」

「普段の読書もただ読むのではなく、【指さし確認】をしながら読むとよいでしょう。文章に集中しやすくなります。」

〇語彙力を高めるには

「語彙力は読解力や記述力のベースになる重要なものですが、語彙力は家庭環境などの生活経験がベースになっているため、個人差があります。もちろん多くの語彙を持っている子どもは、読解力や記述力も伸びていきます。」

「読書や学習によって語彙を増やすというやり方も大切ですが、子どもの個性や興味・関心を尊重することで、文字に触れる頻度を増やしていくのが理想的だと考えます。きちんとした文章や本でなくてもよいのです。お菓子のパッケージや説明書を読むのが好きな子どもはそれでよいですし、虫が好きな子どもは昆虫図鑑などでもよいでしょう。加えて語彙力の向上という観点でいえば、興味・関心を持った言葉の意味を辞書で調べるという習慣が身に付くとよいと思います。」

電子辞書を活用した小学校での取り組み事例はこちら

新学習指導要領でも「読む力」に関連した事項を新設

リーディングスキルテストに対応できるような「読む力」を重視する傾向は、2020年の新学習指導要領に新設された「情報の取扱いに関する事項」にも表れており、小学校の学年ごとに次のような取り組みが求められるようになる。

〇小学校1・2年

ア 共通、相違、事柄の順序など情報と情報との関係について理解すること。

〇小学校3・4年

ア 考えとそれを支える理由や事例、全体と中心など情報と情報の関係について理解すること。
イ 比較や分類の仕方、必要な語句などの書き留め方、引用の仕方や出典の示し方、辞書や事典の使い方を理解し使うこと。

〇小学校5・6年

ア 原因と結果など情報と情報との関係について理解すること。
イ 情報と情報との関係付けの仕方、図などによる語句と語句との関係の表し方を理解し使うこと。

これまで3回にわたってお届けした「思考力・判断力・表現力は読解力で伸ばす」。
第1回は「共通テストで問われる読解力と『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』」、第2回は「読解力は思考力・判断力・表現力(記述力)につながる」、第3回は「リーディングスキルテストとその対策」をテーマに、教育の現場で役立つ「読解力」について掘り下げてきた。

大学入試対策をはじめとする学習面の要となるだけではなく、生徒の将来にとって重要となる読解力。教育現場でよりいっそう関心の高まるテーマとして、今後も注目していきたい。

ライター/笠原紗由香