教育情報 外国語教育の「小中接続」で大切にしたいこと

リリース日:2020年9月3日

外国語教育の「小中接続」で大切にしたいこと

小学校

今年度の小学校学習指導要領(平成29年告示)の全面実施、さらに2021年度の中学校学習指導要領(平成29年告示)の全面実施、2021年度から段階実施される高等学校学習指導要領(平成30年告示)によって実現される新課程の外国語教育では、小・中・高等学校を通じた改革を目指します。すなわち、小学校中学年に「外国語活動」、高学年に教科としての「外国語」が導入されることにより、学校教育における英語教育が10年という長い期間で行われることになりました。

このある程度まとまった期間で英語教育の成果をあげるためには、それぞれの学校種、学年の英語教育で何が目指されているかを正しく理解し、それぞれの役割を果たさなければなりません。前回、小学校「外国語」の指導で大切にしたいことをお伝えしました。これを受けて今回は、中学校「外国語」の指導について考えていきたいと思います。

小学校の学びを中学校に引き継ぐ

小学校「外国語」では、新たに学ぶ英語の言語材料を、まとまりのある表現として理解し、表現できるようになることを目指します。これに続く中学校では、小学校で慣れ親しみ、できるようになったことを、その後の創造的・即興的な言語運用に向けて整理し、規則化していくことで、発達段階に応じた学びに引き上げることを目指していると言えます。中学校は、英語という言語の基本的な文法や文構造などの学習事項の多くを網羅する期間です。

しかしながら、「コミュニケーション能力」を育む教科としての「外国語」、すなわち英語科教育では、機械的・ドリル的な学習に終始することなく、意味あるやり取りを通して英語を学ぶことを大切にせねばなりません。「知識及び技能」の観点から育成すべき資質・能力の多さを考えても、10年間の「外国語」の学びの中心、中核を占める時期として、中学校英語科教育の果たす役割の大きさが分かります。

これまで、中学校「外国語」では、まず「教科として初めて英語に触れる子どもたち」に向き合うという意識がありました。しかし、これからは小学校で4年間の英語学習を経験した生徒を前にして授業を行うことになります。これは英語科教育の「仕切り直し」、あるいは「リセット&リスタート」ではありません。小学校での外国語教育を引き継ぎ、中学校「外国語」の特徴を踏まえた学びへと接続する「小中接続」という意識が必要です。

小学校から中学校への学びの接続とは、小学校で目指されている「児童の認知発達段階や、英語への慣れ親しみを重視する学び」をそのまま踏襲し、同じような学び方を中学校でも目指すことを意味するものではありません。小学校の学び方や学習内容を滑らかに引き受けながら、中学校で育成を目指す資質・能力の特徴や、中学生の認知発達段階に応じた学びへと落ち着かせていくこと。これが「小中接続」の表すものです。

「小中接続」の視点

小学校から中学校への「学びの接続」には、3つの視点があると私は考えています。指導者の観点から表すと、それらは「教材」の共有、「内容」の共有、そして「指導法」の共有です。

【「教材」の共有】

新学習指導要領の移行期間には、文部科学省作成の中学年「外国語活動」教材 Let’s Try! 1, 2 と高学年「外国語」教材We Can! 1, 2 など、小学校外国語教育で用いられる教材を中学校で改めて用いることで、生徒に「小学校の英語の時間でこんな活動もしたな」と意識させることを提案してきました。

今年度から高学年で検定教科書の使用が始まっています。中学校で教員が「みんなが小学校の英語の時間にどんな活動をしてきたかを知っていますよ」と「教材」を共有しながら示すことで、生徒は小学校と中学校の英語学習が別物ではなく、「英語という言語の学び」という連続体であることを感じることができます。そのためにも中学校の先生方には、目の前の生徒が小学校でどのような教材に触れてきたのかを理解し、実際に触れておくことが大切です。

【「内容」の共有】

上述のように小学校外国語教育の「教材」を実際に中学校でも繰り返し用いるだけでなく、さらに小学校で聞いたり伝え合ったりした「内容」を中学校でも改めて言語活動の中で用いることで、生徒の認知発達段階に応じた「思考、判断、表現」に繋げることができます。

例えばfood(食べ物)というトピックを小学校で扱う際には、「好きな食べ物や、苦手な食べ物を伝え合ったり、たずね合ったりする」という言語活動から始まります。中学校では、その同じトピックに関連して、自分の周りのことから世界を広げ、「地域で栽培される食べ物や、食料問題などについて自分の考えや意見を伝え合ったり、対応を考えたりする」言語活動まで発展させることができます。「food(食べ物)はもう小学校で何度も扱ったトピックだから」といって敬遠するのではなく、中学生としてそのトピックにどのように向き合うことができるか、「目的、場面、状況等」の設定を工夫しながら「深い学び」へと促したいものです。

【「指導法」の共有】

小学校外国語教育では、様々な表現を「基本的な表現」として、「目的、場面、状況等」が明確に設定された状況で言語活動を通して聞いたり、言ったりしてきています。好きな果物を尋ねる“What fruit do you like?”も、好きな科目を尋ねる“What subject do you like?”も、どこに行きたいかを尋ねる“Where do you want to go?”も、それぞれの表現が実際に用いられる状況で、目的に合わせて使えることを目指します。同様に過去を表す表現も、「今より前」のことについて話す状況の中で何度も繰り返し聞いたりするからこそ、“I went to the library. I enjoyed reading. It was fun.”のように過去形を含む文として使えるようになるのです。決してwentはgoの、enjoyedはenjoyの、wasはisの「過去形である」という詳細な説明を受けたり、意識したりしているわけではありません。

それゆえ中学校では、まず小学校で設定したものとは異なる場面や状況で、過去形を含む文を活用できるようにすることから始めます。さらに、小学校で聞いて理解し、言えるようになり、例文を参考にしながら「書き写す」ことができるようになってきた表現を、今度は自分の力で書けるようにするための指導が求められます。

文法や構文の扱い

中学校の授業では、文法規則を解説する時間をぎりぎりまで短くすることが大切です。その代わり、生徒が小学校で「まとまりのある表現」として慣れ親しみ、やり取りの中で用いてきた表現を引き出し、それらの「規則性」に気づくような仕掛けを取り入れます。「ある目的を達成するために用いてきた様々な表現が、実はこういう形式的な部分で共通していたんだ」と生徒が気づけば、それを指導者が文法事項として整理して説明します。後に参考書や文法書を、生徒が自分で確認するために必要な文法用語に触れておくことも効果的です。しかし最も大切なのは、同じ解説を何度も時間をかけて繰り返すのではなく、一度整理した規則に基づく表現を、聞くこと、話すこと、読むこと、書くこと、あらゆる技能・領域の言語活動の中で、何度も実際に「意味あるやり取り」として活用させることです。

さらに「ある目的を達成するために伝えねばならないことが、これまで学んできた表現だけでは表せない」場面や状況を設定することで、新たな文法事項を学ぶ必然性を生みだすこともできます。例えば、「今、自分や他の人がしていることを、英語でさらに別の人に伝えることができる」という目標設定のもとで、「電話の相手に、今の家族の様子(家族が今何をしているのか)を伝える」というタスクを設定するとします。指導者はまず、“My sister likes playing the piano. She plays the piano every day. Now she is playing the piano in her room.”のように、既習の単純現在形と新出の現在進行形を対比させてモデル文を聞かせます。生徒が「今~している」状況を表すためには、“She plays the piano.”ではなく“She is playing the piano.”という形が必要だと気づくように、十分なインプットを取り入れていくことが大切です。




「小中接続」を有意義なものとするには、小学校の学びを引き受ける中学校「外国語」の果たす役割が大きいと考えられます。まずは中学校の先生方が、小学校「外国語」を知る。ここから始まります。



愛知県立大学 外国語学部 教授 池田周先生
新学習指導要領 外国語シリーズ 教育情報

第1回:「小学校学習指導要領(平成29年度告示)」全面実施を迎えて(リリース日:2020年6月10日)

第2回:言語材料の導入と言語活動における「目的、場面、状況等」の設定(リリース日:2020年8月3日)

第3回:外国語教育の「小中接続」で大切にしたいこと(リリース日:2020年9月3日)

第4回:「主体的・対話的で深い学び」の実現(リリース日:2020年10月9日)

第5回:「学習指導要領に定める目標に準拠した評価」の実現に向けて:観点別学習状況の評価の3観点と「指導と評価の一体化」(リリース日:2020年11月27日)

池田周先生プロフィール

愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。
小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。文部科学省「小学校の新たな外国語教育における補助教材の検証及び新教材の開発に関する検討委員会」委員を努めた。
大学では小学校および中・高等学校英語科の教員養成課程に携わり、学校現場での教員研修・セミナー等も数多く担当。