教育情報 言語材料の導入と言語活動における「目的、場面、状況等」の設定

リリース日:2020年8月3日

言語材料の導入と言語活動における「目的、場面、状況等」の設定

小学校

新課程での小学校外国語教育が始まり、特に高学年「外国語」では検定教科書による授業が行われています。これまで2年の移行期間の実践を踏まえ、新たに目にする教科書内容や構成を理解しながら指導計画を立てていきますが、コロナ禍における学校現場では「やり取り」の活動への配慮や、「学びの保障」に向けた学習内容の重点化など、様々な工夫が求められています。

前回、「小学校学習指導要領(平成29年度告示)」全面実施に向けて、その外国語教育が目指す方向性についてお話ししました。今年度のような状況下でも、新学習指導要領が求める小学校「外国語」の指導のあり方を常に意識しながら、具体的な指導を考えていくことが大切です。

そこで今回は具体的に、小学校「外国語」の指導で大切にすべきことを考えてみたいと思います。

言語活動で用いる言語材料の導入

小学校高学年「外国語」では、これまでの「外国語活動」と変わらず、新たな語句や表現にまず音声から慣れ親しむことを大切にします。それぞれのクラスには、発達段階的に、文字を頼りにする学び方をする児童もいます。また「読むこと」「書くこと」の領域を導入することから、教科書にも用いる表現が文字で表されています。指導者も思わず児童に教科書を開かせ、最初から書かれた文字を参照して表現を導入してしまうかもしれません。しかし既習の語句や表現がまだ少ない段階では、聞こえてきた英文を、音のまとまりごとに区切りながら、曖昧でも何とか内容を理解しようとする態度が必要なのです。この「まず音声で慣れ親しむ」段階を、丁寧に指導に組み込んでいきます。

例えば、高学年「外国語」では、思い出などを伝え合う言語活動を行います。そのために必要な言語材料である「過去を表す表現」の学習指導要領上の位置づけが、小学校と中学校では異なります。すなわち、「小学校学習指導要領(平成29年告示)」「外国語」では、「2 内容」〔知識及び技能〕の「(1) 英語の特徴やきまりに関する事項」「エ 文及び文構造」「(ア)文」の中に、「f 動名詞や過去形のうち,活用頻度の高い基本的なものを含むもの」として含まれます。一方、「中学校学習指導要領(平成29年告示)」「外国語」では、「エ 文、文構造及び文法事項」の「(ウ)文法事項」という括りで扱われています。つまり「過去を表す表現」は、中学校で「過去形」という文法事項として、その形が表す意味や機能を整理して学びます。その前に小学校において、「文」、すなわち「基本的なまとまりのある表現」として、「意味のある文脈でのコミュニケーションの中で繰り返し触れることを通して活用」しておくのです。

言語活動を行うために、新たな言語材料を「文」の形で導入する時には、その「音声のまとまり」が児童にとって意味をもつことが必要です。それが表す意味を理解できない状態で、音声だけを繰り返し発音する練習をしても、実際の言語活動で使えるようにはなりません。「何かを伝えたい」時に、「これはあの表現で伝えることができる」と意識することによって、その表現が習得され、他の様々な場面でも活用できるようになります。上でも少し触れたように、ことばによるコミュニケーションは、多少の意味の曖昧性の中で、それを様々な方略で乗り越えながら達成されるものです。最初は何を表すのかあやふやにしか理解できなくても、新たな表現に意味のある文脈の中で繰り返し接することで、次第に児童にとって慣れ親しみのある表現となる。これが小学校段階特有の言語材料の導入であり、それに欠かせないのが、「目的や場面、状況等」の設定です。

言語活動の題材を児童の興味・関心に合ったものとし、さらに新たに導入する表現を用いる目的が明確、あるいはそれを用いる必然性のある場面や状況の設定ができていれば、その意味を推測しやすくなります。つまり自然な言語の使用場面のなかで新しい語句や表現に出合うことにより、日本語の説明を介さずに、児童に何となく意味が伝わることが期待できます。

具体例として、移行期間の高学年で使用されていた文部科学省作成の新学習指導要領対応高学年用教材We Can! 2のうち、過去を表す表現を扱う単元(Unit 5 “My Summer Vacation”)を見てみます。ここでは次の流れで、“I went to ~.”(~に行った)、“I enjoyed ~.”(~を楽しんだ)という表現を導入します。

(1)【場面設定】実際に夏休み明け最初の授業などで、指導者が、「夏休みは楽しかった?」「どこに行ったの?」「何を食べたの?」「何が楽しかった?」などと児童に問いかけ、その時期に身近な話題である「夏休みの思い出」を意識させておく
(2)【言語材料の提示】過去を表す表現を含むモデル文を、指導者が児童に語る形で、音声として聞かせる。「海」「泳いでいる」「釣りをしている」「楽しそうな様子」の絵カードを提示しながら、指導者が“(I’ll tell you about) my summer vacation. I went to the sea. I enjoyed swimming and fishing. It was fun!”と児童に語りかける。

この時、wentがgoの過去形で「~へ行った」という意味である、という説明は不要です。すなわち、児童は「夏休みの話が続いている」と感じていますし、summerやvacation、swimming、fishing等の語は外来語として知っているかもしれません。さらに指導者が示す絵カードから「場所」「何をした」「気持ち」に当たる情報を推測しながら、モデル文の内容を曖昧ながらに理解します。

言語活動における「目的、場面、状況等」の設定

実は「目的や場面、状況等」の設定は、単に新出語句や表現の意味を児童に推測させやすくするために必要なのではありません。「外国語」の指導を通して育成を目指す資質・能力の三つの柱のうち、「思考力、判断力、表現力等」の育成は、コミュニケーションを行う「目的や場面、状況等」に応じた言語運用を通して行うこととされています。だからこそ、この「目的や場面、状況等」を、授業中の言語活動に明確に組み込んでおくことが重要なのです。

例えば、We Can! 1のUnit 2“When is your birthday?”という単元では、指導者によるモデルを聞いて発音しながら“When is your birthday?”という表現に慣れ親しんだ後で、「クラスのみんなの誕生日を英語で尋ねてみよう!」という言語活動がよく行われます。この時に、「自分と同じ月生まれの友だちを3人見つけよう」とか、「これまで誕生日を知らなかった友だち5人に尋ねてみよう」といった「誕生日を尋ねる目的」を設定してみましょう。既に誕生日を知っている人に機械的に尋ねたりすることなく、聞いた誕生日をきちんと情報として受けとめながら活動する児童の姿を見ることができます。

さらにWe Can! 1の Unit 2では、「誕生日を尋ね、さらに既習表現である“What do you want for your birthday?”を使って、誕生日に欲しいものを尋ねる」、そして「相手から聞いた誕生日の日付を書き、欲しいもののイラストを添えたバースデーカードを作って渡そう」という目的や場面が設定された一連の活動が組み込まれています。その単元で導入した新出表現を、既習表現も取り入れながら、意味あるやり取りの中で活用できるように言語活動が構成されているのです。

おわりに

以上のように、「外国語」の授業では、児童の身近な世界により近く、「学んだ表現を使ってやり取りする必要性」を、児童自身が明確に理解した状態で言語活動が行われるように配慮することが大切です。そのために必要な「目的や場面、状況等」の設定において、あるいはそれらの理解を確かめるための児童とのやり取りにおいて、「母語である日本語を使っても良いか」という質問を受けることがあります。児童にとって理解の困難な表現であれば、日本語を取り入れて効率的に指導を行うことも良いかと思います。

その際は、既習表現などを用いて言い換えなどを適切に行った上で、それでも意味の推測が困難であることを見極めてからの方がよいでしょう。すぐに日本語を聞かせると、児童が「曖昧でも意味を理解しよう」とする努力を諦めてしまうからです。

このような状況で、日本語を用いる場合には、「英語+日本語+英語」のサンドイッチにしましょう。英語の授業であることを児童にも意識させたい、また一般に「最後に聞いた響き」が耳に残りやすいからです。これは【指導者が誤った文の例などを学習者に聞かせる際に、十分な配慮が必要なこと】にも関連しています。英語表現に日本語訳を添えたら、続けて最初の英語表現を聞かせるという工夫をお願いしたいと思います。

今回、言語材料の導入と言語活動における「目的、場面、状況等」の設定についてお話させていただきました。次回、小中接続についてお話しする予定です。



愛知県立大学 外国語学部 教授 池田周先生
新学習指導要領 外国語シリーズ 教育情報

第1回:「小学校学習指導要領(平成29年度告示)」全面実施を迎えて(リリース日:2020年6月10日)

第2回:言語材料の導入と言語活動における「目的、場面、状況等」の設定(リリース日:2020年8月3日)

第3回:外国語教育の「小中接続」で大切にしたいこと(リリース日:2020年9月3日)

第4回:「主体的・対話的で深い学び」の実現(リリース日:2020年10月9日)

第5回:「学習指導要領に定める目標に準拠した評価」の実現に向けて:観点別学習状況の評価の3観点と「指導と評価の一体化」(リリース日:2020年11月27日)

池田周先生プロフィール

愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。
小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。文部科学省「小学校の新たな外国語教育における補助教材の検証及び新教材の開発に関する検討委員会」委員を努めた。
大学では小学校および中・高等学校英語科の教員養成課程に携わり、学校現場での教員研修・セミナー等も数多く担当。