教育情報 「小学校学習指導要領(平成29年度告示)」全面実施を迎えて

リリース日:2020年6月10日

「小学校学習指導要領(平成29年度告示)」全面実施を迎えて

小学校

今年度から小学校では新たな教育課程が始まり、高学年では教科としての「外国語」が導入され、検定教科書を用いた授業が行われることになっています。休校が続く中で、まだ実際に対面での授業を行うことができていない学校が多いですが、今後の学校再開、あるいはオンライン授業の取組みなどを見据え、新しい小学校外国語教育が目指す方向性について考えてみたいと思います。

新しい学習指導要領の特徴を理解する

学習指導要領は約10年ごとに改訂されています。今回の改訂に向けて出された中央教育審議会答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」、平成28年12月21日)において、以下6つの視点が示されました。

1.「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)
2.「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)
3.「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実)
4.「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導)
5.「何が身に付いたか」(学習評価の充実)
6.「実施するために何が必要か」(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)

これは、学校が社会と連携・協働することにより子どもたちに必要な資質・能力を育成するという「社会に開かれた教育課程」を目指すためのものです。学習指導要領は単に学校や教育関係者だけが目にするものではなく、児童生徒にとって「学びの意義を自覚する手掛かり」を見いだし、「身に付けるべき資質・能力や学ぶべき内容などの全体像」を分かりやすく見渡せるような「学びの地図」となることが期待されています。そのため、これら6つの視点を枠組みとした明確な形で、新しい学習指導要領がまとめられました。

「外国語」「外国語活動」において育成を目指す「資質・能力」

学校での様々な教科等の学習を通して児童生徒に「身に付けさせたい力、目指す姿」は、各教科等の目標としてまとめられています。新学習指導要領では上記6つの視点の1.「育成を目指す資質・能力」の3つの柱(以下①~③)に従って記述されています。

①「何を理解しているか、何ができるか」という 「知識及び技能」の習得に関わる目標
②「理解していること・できることをどう使うか」という「思考力、判断力、表現力等」の育成に関わる目標
③「どのように社会や世界と関わり、よりよい人生を送るか」という「学びに向かう力、人間性等」の涵養に関わる目標

例えば小学校学習指導要領(平成29年告示)の「外国語」目標は以下のように述べられています。

第1目標
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)外国語の音声や文字、語彙、表現、文構造、言語の働きなどについて、日本語と外国語との違いに気付き、これらの知識を理解するとともに、読むこと、書くことに慣れ親しみ、聞くこと、読むこと、話すこと、書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする。
(2)コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、身近で簡単な事柄について、聞いたり話したりするとともに、音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだり、語順を意識しながら書いたりして、自分の考えや気持ちなどを伝え合うことができる基礎的な力を養う。
(3)外国語の背景にある文化に対する理解を深め、他者に配慮しながら、主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

このうち各教科等の目標に含まれる (1)~(3) の項目が、その教科で「育成を目指す資質・能力」の3つの柱①~③に対応しています。これも新たな学習指導要領の特徴のひとつです。

さらに、この「育成を目指す資質・能力」に深く関わるのが、各教科等の特質に応じて物事をどのような視点で捉え、どのように思考し表現していくかという「見方・考え方」です。実はこの「見方・考え方」を習得・活用・探究という学びの過程の中で働かせることにより、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりする「深い学び」を実現できるとされています。

「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」は、「外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、コミュニケーションを行う目的や場面、状況等に応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること」と整理されています。つまり外国語の学習を通して、児童生徒はまず、様々な言語や文化、社会についての「知識、技能」を身に付け、既習の知識・情報等と関連づけて深く理解していきます。さらに、その「知識、技能」を相手への十分な配慮を行いながら活用し、「思考、判断、表現」できるようになることを目指すのですが、外国語科ではそれらが「コミュニケーションを行う目的や場面、状況等」に応じているかどうかが重視されるのです。「学びに向かう力、人間性等」は、これらの学びの過程全体を下支えするものと考えることができます。

小・中・高等学校を通じた外国語教育の目指すもの

小学校外国語教育では、2011年度に導入された高学年「外国語活動」を通して、児童の高い学習意欲、中学生の外国語教育に対する積極性の向上といった変容などの成果が認められました。一方、①音声中心で学んだことが、中学校の段階で音声から文字への学習に円滑に接続されていない、②国語と英語の音声の違いや英語の発音と綴りの関係、文構造の学習において課題がある、③高学年は、児童の抽象的な思考力が高まる段階であり、より体系的な学習が求められることなどが課題として指摘されています。

これらの成果と課題を踏まえ、今年度から始まる新課程では、中学年に「外国語活動」を導入して「聞くこと」、「話すこと」を中心とする外国語を用いた体験的な活動を通じて、言語や文化について体験的に理解を深め、外国語の音声や基本的な表現などに慣れ親しませ、「コミュニケーションを図る素地」となる資質・能力を養います。これまでの高学年「外国語活動」の前倒しではなく、中学年児童の発達段階や興味・関心、学びの特徴を踏まえた内容を扱うものとして新たに導入されたのです。

その上で高学年「外国語」において、教科としての外国語教育のうち基礎的なものとして、「コミュニケーションを図る基礎」となる資質・能力を育成します。中学年から高学年及び中学校への学びの連続性を持たせながら、これまでの「聞くこと」「話すこと」を中心とする体験的な活動に加え、「読むこと」「書くこと」の領域を扱う言語活動を通じて、より系統性を持たせた指導(教科型)が行われます。この小学校における外国語学習経験を基に、中学校「外国語」では、実際に「簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりする」ために「コミュニケーションを図る資質・能力」を発展させ、応用しながら活用できることを目指します。さらに高等学校「外国語」は、その活用の仕方に「言語活動の統合」や「理解の的確さ」、「表現や伝え合いの適切さ」といった質的な深まりを求めるものとなっています。

このように、小・中・高等学校を通じた外国語教育においては、まず小学校でコミュニケーションを図る「素地」や「基礎」をその目的に合わせてしっかりと構築すること大切です。「ことばの学び」とは学校段階ごとに完結するものではなく、ひとつの連続する過程(プロセス)として生涯に渡って続くものだからです。各学校段階で育成する資質・能力を俯瞰的に見渡せる資料などを活用しながら、それぞれの役割を果たしていくことが期待されています。さらにその外国語教育の過程を通して、児童生徒が自らの学びを振り返り、調整し、計画していく「自律した学習者」となるような指導も目指したいものです。

  • ※「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 外国語編 英語編」(文部科学省、平成30年7月)、付録8「外国語活動・外国語の目標」、付録9「外国語の言語材料」、付録10「外国語活動・外国語の言語活動の例」

これらについては次回以降、お話していきたいと思います。

池田周先生プロフィール

愛知県立大学外国語学部教授。英国Warwick大学博士課程修了。博士(英語教育・応用言語学)。
小学校英語教育学会(JES)愛知支部理事。文部科学省「小学校の新たな外国語教育における補助教材の検証及び新教材の開発に関する検討委員会」委員を努めた。
大学では小学校および中・高等学校英語科の教員養成課程に携わり、学校現場での教員研修・セミナー等も数多く担当。