教育情報 新学習指導要領で外国語(英語)教育はこんなに変わる!
【第5回 大学受験編】
リリース日:2019年11月21日
新学習指導要領で外国語(英語)教育はこんなに変わる!【第5回 大学受験編】
2020年度以降に実施される新学習指導要領では、小・中・高一貫した外国語教育の抜本的強化に向けて、各段階を通じて「聞く」「読む」「話す(やり取り:interaction)」「話す(発表:production)」「書く」ことの4技能5領域(小学校中学年では2技能3領域)をよりバランスよく育成し、実際のコミュニケーションに取り組んでいけるような力を重視。大学入試でも4技能を評価することになった。
各段階の新学習指導要領における変更点のポイント、そして外国語教育における留意点などについて、第1回小学校、第2回中学校、第3回高校入試、第4回高校、第5回大学受験に分けて解説していく。
英語民間試験導入の延期が決定
2019年11月1日、文部科学省が大学入試改革において最大の要となる英語の民間試験導入(「大学入試英語成績提供システム」)について、2020年度からの導入を見送ることを発表し、物議を呼んでいる。
10月、文部科学省は「大学入試英語成績提供システム」利用大学の一覧および利用する場合にどのようにするのかをとりまとめ、大学入試英語ポータルサイトに掲載。同システムの導入が決定したはずであった。
そもそも大学入試改革では、センター試験に変わる大学入学共通テストの内容変更と同時に、従来の「読む」「聞く」に「書く」「話す」を加えた英語の4技能を評価するために、大学入試センターの基準に合致した以下の英語資格・検定試験を採用を決定していた。
これらの資格・試験の結果(高校3年の4月~12月までの結果を2回分まで登録可能)を大学入試センターが設置・管理する「大学入試英語成績提供システム」に登録することで、外部試験の結果を大学入試に利用することができるとしていたのである。
もとより「大学入試英語成績提供システム」の導入をめぐっては、全国高等学校協会から強く見送りを訴える声が上がったり、大学教授らから中止を求める意見が表明されたりと、教育現場からの反対意見が多くあがっていた。また、当初参加予定であった民間試験団体TOEICが2019年8月には参加を取り下げたことも記憶に新しい。
そうした反対の声を押し切る形で決定した「大学入試英語成績提供システム」の導入が急遽見送られることとなり、システムの導入を決定していた大学も対応に追われている。
例えば2021年度から全学部を対象とする入試改革をいち早く打ち出した早稲田大学は、政治経済学部の一般入試改革で、大学入試共通テスト、英語外部検定試験、学部独自試験(日英両言語による長文を読み解いたうえで解答する形式)の合計点により選抜する方式に変更することを発表していたが、今回のシステム延期を受けて英語4技能試験の実施内容を見直さざるを得なくなった。
なお、各大学の資格・検定試験の活用の有無や活用方法については、2019年12月13日を目途に文部科学省がとりまとめ、発表することとなっている。
現行のセンター試験と大学入学共通テストの違い
「大学入試英語成績提供システム」の導入は見送りとなったが、同時に決定していたセンター試験に変わる大学入学共通テストは2020年度(2021年1月)に先行実施、2024年から本格実施となる。外国語(英語)科目では、まず配点が大きく変更となる。
センター試験
筆記(配点:200点)/リスニング(配点:50点)
↓
大学入学共通テスト
リーディング(配点:100点)/リスニング(配点:100点)
これまでセンター試験では「筆記」「リスニング」が課されていが、これからの大学入学共通テストでは、「筆記」は「リーディング」に改称され、配点は200点から100点に変更。「リスニング」の配点は50点から100点に変更される。
どちらも解答はマークシート式であるというのは変更はないが、出題方法には大きな変化がみられる。例えばこれまでセンター試験では「次の問いに答えよ」といった日本語での出題用いられていたことが、大学入学共通テストのリーディングでは、基本的に英文で書かれた指示文や出題文を読み解いて解答していくことが求められる。
またリスニングについても、配点が大きく変わるだけではなく、内容にも変化がみられる。2019年に大学入試センターの発表した「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針について」では、次のように示されている。
・「リーディング」「リスニング」ともにCEFRレベルにふさわしいテクスト作成と設問設定を⾏い、A1 から B1 レベルに相当する問題を作成する。
・実際のコミュニケーションを想定した明確な⽬的や場⾯・状況の設定を重視する。
令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等及び大学入学共通テスト問題作成方針についてより抜粋
CEFR は語学コミュニケーション能力を評価する国際指標で、A1~C2の6つの等級がある。A1/A2レベルは「基礎段階の言語使用者」、B1/B2レベルは「自立した言語使用者」、C1/C2レベルは「熟達した言語使用者」とされており、「その言語を使って、具体的に何ができるか」という実用的な観点から英語力を評価する。そのため、英語圏での就労や留学の際に役立つ指標として用いられてきた。
以下は文部科学省によるCEFRと各種資格・検定試験の対照表である。
大学入学共通テストの出題範囲を把握する意味においても、CEFRの指標を意識した学習指導が求められるようになるだろう。
ただし、先に取り上げた民間試験採用の延期と同様に、大学入学共通テストに関しても多くの反対意見や懸念の声が上がっている。入試の内容を見直す大学も出てくるなど、混乱が続いている。
文部科学省は、このほど11月の「大学入試英語成績提供システム」導入延期の発表と合わせて、新高等学校学習指導要領下で初めて実施となる2024年度実施の大学入学者選抜に向けて、大学入試における英語4技能評価のあり方を今後1年を目途に検討し、結論を出すと表明している。
今後の情報を注意深く見守っていく必要がある。
構成・執筆/笠原 紗由香