教育情報 新学習指導要領で外国語(英語)教育はこんなに変わる!
【第4回 高校編】

リリース日:2019年11月7日

新学習指導要領で外国語(英語)教育はこんなに変わる!【第4回 高校編】

高等学校

2020年度以降に実施される新学習指導要領では、小・中・高一貫した外国語教育の抜本的強化に向けて、各段階を通じて「聞く」「読む」「話す(やり取り:interaction)」「話す(発表:production)」「書く」ことの4技能5領域(小学校中学年では2技能3領域)をよりバランスよく育成し、実際のコミュニケーションに取り組んでいけるような力を重視。大学入試でも4技能を評価することになった。

各段階の新学習指導要領における変更点のポイント、そして外国語教育における留意点などについて、第1回小学校、第2回中学校、第3回高校入試、第4回高校、第5回大学受験に分けて解説していく。

発信力を伴う英語力の育成へ

2022年度以降から順次実施される高校の新学習指導要領と、現行の学習指導要領とでは、次のように授業構成が変更となる。

【これまで】
コミュニケーション英語基礎(2単位)
コミュニケーション英語Ⅰ(3単位)※必修
コミュニケーション英語Ⅱ(4単位)
コミュニケーション英語Ⅲ(4単位)
英語表現Ⅰ(2単位)
英語表現Ⅱ(4単位)
英会話(2単位)

【これから】
英語コミュニケーションⅠ(3単位)※必修
英語コミュニケーションⅡ(4単位)
英語コミュニケーションⅢ(4単位)
論理・表現Ⅰ(2単位)
論理・表現Ⅱ(2単位)
論理・表現Ⅱ(2単位)

現行の「コミュニケーション英語」が、新学習指導要領においては「英語コミュニケーション」に変更となる。また、ディベートやディスカッションを通して発信力を高める「論理・表現」の科目も設置される。これらの授業では、テストなどの得点につながるスキルを身につけること以上に、中学校までに学んできた4技能5領域の英語を使って、実践的に用いることが重視される。そのことが、科目名にも反映されているのである。

文部科学省では、そのために授業は基本的に英語のみで進行することや、「英語を使って何ができるようになるか」という観点から、生徒に求められる学習到達目標(CAN-DO形式)を作成することを求めている。

『CAN-DO』は、例えば中学校卒業までに「聞いたり読んだりしたことなどについてほかの人と話し合い、理解したことを確認したり、意見の交換をしたりすることができる」「自分の考えや気持ちなどが読み手に正しく伝わるように、文と文のつながりや全体としてのまとまりに注意してある程度の長さの文章を書くことができる」といった具体的な到達目標が示されるのが大きな特徴だ。

学習指導要領改訂と「高大接続」改革の連動性

高校では、大学入試や各大学で進んでいく英語4技能に重きを置いた新傾向の試験問題・試験制度に対応できる力をつける指導も求められていくだろう。ただし、教育の目的は入試対策ではない。高校での取り組みが、結果的に新入試にも対応できる力を育んでいけるような指導が求められる。

ここで今回の学習指導要領の改訂は、文部科学省が進める「高大接続改革」の一環として行われるものであり、高校での学びの内容と大学入試における評価、そして大学教育における学びの内容が、分断されることなく、『学力の3要素』という理念の下に一貫して行われるという点に改めて注目したい。

学力の3要素とは、(1)十分な知識・技能、(2)それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力、そして(3)これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度のことである。

そのための授業改善として文部科学省では「主体的・対話的で深い学び」を掲げ、それを受けてアクティブラーニングや探求型学習などを推奨している。また、グローバル人材育成を目標として、「国際バカロレア(IB)」※事業、「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」※事業、それに加え2019年からワールド・ワイド・ラーニング(WWL)機構※を発足しており、これらの取り組みは高校での学びの枠組みを大きく変える指標となるだろう。

※ 国際バカロレア(IB)機構
国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)機構は1968年に始まり、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的とする」ことを使命として掲げ、そのための教育プログラムやカリキュラムを作成している。IBのプログラムは、世界1400以上の国・地域で実施されており、日本向けのカリキュラムの導入を国を挙げて推進している。
※ スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)
国際的に活躍できるグローバルリーダーの育成を図るために、文部科学省が重点を置く高等学校を指定(指定期間は原則3年間)する制度で、2014年にスタート。
※ ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)コーンソーシアム構築支援事業
2019年、文部科学省が「高等学校等と国内外の大学、企業、国際機関等が協働し、高校生へより高度な学びを提供する仕組みを構築すること」を目標にスタートさせた取り組み。

IBについては2018年までに認定校を200校に増やすこという計画が掲げられており、さいたま市立大宮国際中等教育学校など全国で4校が開校するなど、公立中高一貫校においてもIBの認定校が増加している。

また、多くの私立学校や一部の公立学校では、授業内容のみならず、独自の異文化体験を導入することで生徒の意欲を高める取り組みにも力を入れている。例えばアジアの発展途上国に出かけて行き現地の人たちと生活を体験する海外研修や、日本に滞在する他国からの留学生と日本国内で合宿をして交流を深めるといった内容である。語学の習得だけを目的としない異文化体験を通して、語学を学ぶ目的を生徒に自覚させることで、主体的な学びにつなげていこうという取り組みである。

これらの実践には、教育現場ではさまざまな課題があるだろう。高校は大学入試が主たるモチベーションになりがちで、受験勉強は一人でコツコツと取り組むものというイメージを持つ生徒も少なくないように思う。

しかし、小・中・高の学習指導要領の改訂や大学入試改革によって求められる新しい英語力は、国際化が進む大学での学びにもつながるものであり、これからの大学では、留学生の割合が増え、英語によるディスカッションを中心とする講義がますます増えていくだろう。これからは大学での学びに備える上でも、英語力が重要となってくるのである。

これからは、よりいっそう生徒一人ひとりの学習意欲と寄り添いながら、異文化の人々と合意を図っていくうえで必要な、コミュニケーション力を伴う英語力を育てていかなければならない。

構成・執筆/笠原 紗由香